動画を制作したのに、思うような反応がない。再生数は伸びるけど、問い合わせにつながらない。そんなお悩みをお持ちではないでしょうか。
その原因は、動画の「質」ではなく、動画戦略の「設計」にあるのかもしれません。多くの企業は、商品の機能説明やメリットを詳しく伝えることが大切だと考えています。しかし、視聴者の判断に影響しうる要素として、「心理的フレーミング」という心理学の原理が注目されています。
同じ情報でも「見せ方」次第で、人の判断や反応は変わります。この記事では、心理学研究で知られているフレーミングの基本を解説します。そのうえで、動画戦略にどう活用できるかを、仮説として探ります。
マーケティング担当者が動画制作の際に参考にできる、心理的フレーミングの考え方を紹介します。
動画戦略で失敗する企業の共通パターン
目次
動画制作がうまくいかない企業には、共通しやすいパターンがあります。
失敗パターン①:商品説明に時間をかけすぎている
営業動画や商品紹介動画では、つい説明が長くなってしまいます。「製品の特徴」「導入メリット」「実績」「顧客の声」。すべてが大切に見えるから、詰め込んでしまう。その結果、早い段階で視聴者の関心が離れてしまうことがあります。
失敗パターン②:自社視点で動画を作っている
「弊社の新製品は…」「このサービスの強みは…」という自社都合の説明は、視聴者には響きにくいものです。視聴者がまず知りたいのは、「自分がどうなるか」ではないでしょうか。
失敗パターン③:テロップとナレーションに頼りすぎている
テロップで説明し、ナレーションで補足する。情報量を詰め込もうとするあまり、映像の力が弱くなることがあります。その結果、視聴者の想像力が入り込む余地が減り、印象に残りにくくなります。
失敗パターン④:一度の投稿で終わらせている
ショート動画は、1本で完結させるのではなく「継続投稿で世界観を積み重ねる」ことで力を発揮すると考えられます。1本の動画では、ブランドイメージは定着しにくいのです。
心理的フレーミングとは|心理学の基本原理
心理的フレーミングは、同じ情報でも「見せ方」(表現の枠組み)次第で、人の判断や心理反応が変わる現象を指す心理学用語です。1981年、心理学者のTverskyとKahnemanが『Science』誌に発表した論文で知られるようになった、認知心理学の重要な概念です。
医療統計で見る心理的フレーミングの例
分かりやすい例として、医療の世界で有名な実験があります。McNeil, Pauker, Sox & Tversky(1982年)が『New England Journal of Medicine』に発表した研究です。患者、大学院生、医師を対象に、肺がんの治療法として手術と放射線療法のどちらを選ぶかを調べました。
- 「生存フレーム」で説明した場合: 「手術を受けると、1年以上生存する確率は68%です」
- 「死亡フレーム」で説明した場合: 「手術を受けると、1年以内に亡くなる確率は32%です」
情報は同じ(68%生存=32%死亡)です。それでも、生存フレームで説明されたときのほうが、放射線療法と比べた手術の魅力が大きく高まりました。この研究は、フレーミング効果を示した代表的な研究として、よく引用されています。
なお、この効果の解釈については、提示形式による影響などを指摘する後続研究もあります。フレーミングは、あくまで「判断が影響を受けうる」ことを示す知見として理解してください。
動画戦略における心理的フレーミングの応用可能性
動画制作でも、同じ考え方が機能する可能性があります。
例えば、良品計画(無印良品)の発酵導入美容液には、「いい肌に、なる準備。」という広告表現があります。商品は、化粧水の前に使い、肌を整える「導入美容液」です。この表現の選択は、フレーミングの考え方に通じる面があるかもしれません。ただし、良品計画がフレーミングを意図したと公表しているわけではありません。
「完璧な肌を実現する」という表現よりも、「準備する」という表現のほうが、生活者の現在地に寄り添い、共感が生まれやすい可能性があります。ただし、この表現が購買行動にどの程度影響しているかについて、公式な検証データは公開されていません。あくまで、考え方を理解するための一例として捉えてください。
心理的フレーミングの型|学術的背景と動画応用
学術的背景:3つのフレーミング効果
学術的には、Levin, Schneider & Gaethが『Organizational Behavior and Human Decision Processes』に発表した論文が、フレーミング効果の代表的な分類として広く参照されています。この論文は、フレーミング効果を次の3つに区別しています。
- リスク選択フレーミング(Risky-choice framing): 同じ選択肢でも、利得の枠と損失の枠で選択の傾向が変わる
- 属性フレーミング(Attribute framing): 対象の属性の説明方法(例:「80%が満足」と「20%が不満」)で評価が変わる
- 目標フレーミング(Goal framing): 行動の結果を「得られること」か「失うこと」かで表現し、メッセージの説得力が変わる
ここでは、このうち「目標フレーミング」の考え方を、マーケティング向けの2つのアプローチとして紹介します。目標フレーミングは、広告やメッセージの説得力に関わる類型で、動画制作にも応用しやすい類型の一つです。
型①:ゲイン・フレーム|得られるもの・ポジティブな変化に焦点
「この営業ツールを使うと、営業が朝礼で説明しやすくなり、チーム全体の雰囲気が明るくなります」
というように、「得すること」「プラスになること」に焦点を当てる手法です。
型②:ロス・フレーム|失うもの・リスク回避に焦点
「この対策をしないと、せっかくの営業機会を逃してしまいます」
というように、「失うこと」「避けるべきリスク」に焦点を当てる手法です。
心理学では、人は同じ大きさの得よりも損を重く感じる傾向があるとされています(損失回避)。
ただし、重要な留保があります。
- Simply Psychologyの解説では、目標フレーミングについて「損失メッセージは、しばしば、しかし常にではなく、より説得的」とされています。ロス・フレームが常に有利とは言えません。
- 損失回避そのものの頑健性についても、Gal & Rucker(2018)のように疑問を呈する研究者がいます。
- 使い方を誤ると押し売り感が出るため、文脈に合わせたバランスが重要です。
参考:効果量について
メタ分析(Piñon & Gambara, 2005)では、フレーミング効果の効果量(d)が、次のように報告されています。
| 類型 | 効果量(d) |
|---|---|
| リスク選択 | 0.437 |
| 属性 | 0.260 |
| 目標 | 0.444 |
目標フレーミングの効果量は、リスク選択フレーミングとほぼ同等で、属性フレーミングより大きい値でした。ただし、これは実験研究の平均的な傾向です。実際の動画広告で同じ効果が得られると示すものではありません。
動画戦略で心理的フレーミングを活用する5つの実装ステップ
心理的フレーミングの考え方を参考にした、5つの実装ステップを紹介します。これは心理学の知見を参考にした仮説的な提案であり、動画施策での効果が検証済みというわけではありません。ご自身のデータで検証しながら取り入れてください。
ステップ1:ユーザーの「現在地」を言語化する
まず必要なのは、ターゲットユーザーがどんな状態にあるかを、正確に言語化することです。
営業支援ツールであれば、「営業が朝礼で新商品の説明に時間がかかっている」という状態。採用管理システムであれば、「人事が手作業で応募者を管理していて、毎日残業している」という状態。
「ユーザーの現在地」を具体的に定義することが、第一歩です。曖昧なままでは、視聴者との共感は生まれにくくなります。
ステップ2:「完成形」ではなく「状態変化」を見せる
最終的なゴールを見せるのではなく、「プロセスの中での小さな状態変化」に焦点を当てます。
「売上が3倍になる」というゴールを見せるのではなく、「営業が朝礼で説明しやすくなり、チームの雰囲気が明るくなる」という小さな変化を映す。このアプローチは、視聴者に「これなら自分たちにも実現できるかもしれない」という親近感を生む可能性があります。
ショート動画の15〜30秒という制約は、この「絞り込み」を促してくれます。すべてを説明できないからこそ、本当に大切な「一つの変化」に焦点が当たります。
ステップ3:冒頭のシーンで「ユーザーの現在地」を映す
ショート動画では、冒頭のシーンが視聴継続に影響するという指摘があります。動画編集ツール事業者(OpusClip)のブログは、YouTubeショートについて「離脱する視聴者のうち約50〜60%が、冒頭3秒以内に離脱する」というデータを紹介しています。ただし、元データの詳細は公開されていません。一つの目安として参考にしてください。
このため、冒頭のシーンを工夫することは、視聴継続の観点から検討する価値があります。動画の最初には、「誰もが経験している日常のシーン」を映してみてください。
- 営業ツールなら「営業が朝礼で説明に困っている表情」
- 採用管理システムなら「人事が書類をめくっている手元」
抽象的ではなく、具体的でリアルな一瞬を切り取ることで、視聴者が自分事化しやすくなる可能性があります。
ステップ4:「説明」ではなく「体験」を映す
ここは難しい一方で、効果が期待できるポイントだと考えられます。
テロップやナレーションで「この商品はこう使えます」と説明するのではなく、「使っている人の表情」「手の動き」「その時間の空気感」を映してください。音と映像と間で「状態が変わる瞬間」を感じさせます。
例えば、美容液を肌に乗せ、化粧水を重ね、肌がしっとり整った表情になる。言葉に頼らず、映像と音だけで「肌が整えられる準備」が伝わる可能性があります。
ステップ5:CTA(行動喚起)は「試させる設計」にする
ショート動画では、直接的な「買ってください」を言う必要はありません。代わりに「やってみたい」という感情を起こすことを優先してみてください。
ショート動画の役割は「購買を完結させる」ことではなく、「試す気持ちを起こす」ことだと考えられます。その先の詳しい説明や購買は、プロフィールのリンク先や問い合わせで行います。
心理的フレーミングが機能するための3つの重要な条件
実装にあたっては、次の3つの条件を意識してください。
条件①:冒頭のシーンで視聴者の注意を引く
冒頭で「あ、これ自分だ」と感じてもらうことが重要です。「弊社の新製品は…」「このサービスの特徴は…」と、自社視点で説明を始めてしまうと、視聴者の関心を引きにくくなります。動画の冒頭では、ユーザー視点を優先してください。ユーザーの不安、日常、小さな違和感。ここから物語が始まります。
条件②:「音」「テンポ」「間」で映像体験を設計する
映像だけでなく、音の設計も大切です。派手な音楽やナレーションに頼らず、自然音や静かな音を活用してみてください。その「間」に、ユーザーの想像力が入り込みます。
テンポも重要です。30秒の中で、急いでしゃべる必要はありません。ユーザーが状態の変化を追いやすいペースを保ちましょう。
条件③:継続投稿で「ブランド世界観」を積み重ねる
1本の動画でも効果があるかもしれません。しかし、継続投稿によって力が発揮される可能性があります。可能な範囲で継続的に投稿を続けてください。フォロワーの心の中に「貴社のブランド思想」が少しずつ蓄積されていきます。1本の「完璧な動画」より、「その世界観を継続する」ほうが、効果的な場合もあります。
企業が陥りやすい3つの勘違い
勘違い①:「情報量が多い=良い動画」だと思っている
機能説明、導入事例、顧客の声、価格情報。すべてを1本に詰め込めば、より多くの人に響くと考える企業は少なくありません。しかし、情報が多すぎると、視聴者に伝わりにくくなる場合があります。余白や想像力の余地を残すことも、設計の選択肢です。
勘違い②:「プロの映像=高い説得力」だと思っている
高いカメラ、豪華なセット、有名な出演者。こうした要素が説得力を生むと考える企業もあります。一方で、スマートフォンで撮影した素人っぽい映像のほうが、親近感を生むこともあります。重要なのは「映像の質」だけでなく、「ユーザーの状態をどう映すか」という設計です。
勘違い③:「1本の動画ですべてを完結させられる」と思っている
ショート動画1本で、商品説明から購買までを完結させようとする企業もあります。しかし、ショート動画の役割は、まず興味や感情を動かすことだと考えられます。その先の行動(問い合わせ、購買、シェア)は、継続投稿による世界観の蓄積や、ランディングページなどとの連携で生まれる可能性があります。
よくある質問|動画戦略の疑問を解決
Q1:心理的フレーミングは、どの業界にも効果がありますか?
A:フレーミングは人間に共通する心理傾向に基づくため、多くの業界に応用できる可能性があります。ただし、業界や商品の特性に応じて、ゲイン・フレームとロス・フレームの使い分けや、表現の工夫が必要です。ロス・フレームの効果は文脈に大きく依存することにも留意してください。
Q2:既存の動画を心理的フレーミング仕様に変更できますか?
A:部分的な修正は可能です。ただし、冒頭の自分事化、説明の削減、音と映像のバランスなどは、設計段階から見直したほうが取り入れやすくなります。新規制作の際に考え方を組み込むほうが、より高い成果につながる可能性があります。
Q3:継続投稿の頻度は、どのくらいが目安ですか?
A:可能な範囲での継続投稿をお勧めします。「投稿本数」よりも「継続性」と「世界観の統一」が重要だと考えられます。定期的に続けられる体制づくりが、成功の鍵になります。
Q4:短い動画だと、商品の詳細情報は伝わりませんが大丈夫ですか?
A:ショート動画の役割は、感情を動かし、興味を引くことだと考えられます。詳細情報は、プロフィールのリンク先やランディングページで提供します。「試してみたい」という気持ちが、詳細情報の閲覧につながる可能性があります。
Q5:心理的フレーミングが失敗する場合はありますか?
A:あります。ユーザーの現在地を正確に定義できていない場合は、狙った効果が出にくくなります。継続投稿できない場合も、1本の動画では効果が限定的です。ロス・フレームは、文脈によって逆効果になる可能性もあります。「正確な設計」「継続性」「文脈への配慮」が重要です。
動画戦略で心を動かす|次のステップへ
心理的フレーミングの考え方は、ユーザーの心理状態を丁寧に読み取り、その状態を映すという、シンプルな設計です。良い動画戦略は、高い撮影技術や豪華な制作費だけで決まるのではなく、「ユーザーの心理をどこまで理解できるか」から始まります。
貴社の動画戦略を、一度見直してみてはいかがでしょうか。
- 冒頭で視聴者が自分事化しているか
- 説明ばかりになっていないか
- 継続投稿ができる体制があるか
このチェックリストを手に、まずは1本の動画から意識してみてください。効果は、再生維持率や問い合わせ数などで確認しながら、改善を重ねましょう。
動画戦略の設計について、まずは相談してみませんか
動画を制作したものの、思うような反応がない。どう改善すればいいのか分からない。そういったお悩みをお持ちでしたら、一度お話しください。貴社のターゲット層、現在の課題、期待する成果を伺ったうえで、心理的フレーミングの考え方をどう組み込むかを一緒に考えます。
時間無制限の無料相談を常時受け付けています。まずはお気軽にご連絡ください。

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