「営業効率を上げたいが、何から手をつければよいか分からない」。そう悩む企業担当者は多いでしょう。営業資料の改善、トークスクリプトの工夫、営業プロセスの見直しはどれも重要です。そこに動画の導入という選択肢を加えるべきか、迷う企業もあります。
動画は営業効率を改善するのか、それとも高い投資で終わるのか。本記事では、動画制作のメリット・デメリット、公開されている事例の読み方、制作費用と期間の目安を整理します。
重要なのは、「営業効率が〇〇%改善する」という数字に頼らず、「自社の何が改善しうるのか」を見極めることです。
営業効率が低くなる原因と、動画が注目される理由
目次
同じ説明の繰り返しという負担
営業担当者が、商品説明、導入プロセス、価格の考え方を商談のたびに説明している企業は少なくありません。この繰り返しが営業時間を圧迫している場合、説明の一部を動画に置き換えられる可能性があります。ただし、自社でどのくらいの時間がかかっているかは、実測しないと分かりません。
買い手の情報収集の変化(調査例)
株式会社エヌケーエナジーシステム(デジタルセールスルーム「Coleta」の提供企業)が2026年1月に実施した調査では、買い手は営業との接点がなくても検討を進めていると報告されています。
- 「買い手は営業との接点がなくても、社内で資料やURLを共有し(47.8%)、動画・FAQを見て判断し(47.2%)、社内会議のみで検討を進めています(32.8%)。」
- 調査期間は2026年1月9〜11日、有効回答数はn=180、調査方法はインターネット調査です。
- 「『進んだ(その方が多かった)』31.1%、『進んだ(半々)』42.8%と、合計73.9%が営業不在でも検討が進んだと回答しました。」
読む際の注意点は次の3つです。
- 47.2%は「動画」と「FAQ」の合算です。動画だけの数値ではありません。
- 合計が100%を超えるため複数回答とみられます。ただし、47.2%の母数が全回答者(n=180)か、「営業不在でも検討が進んだ」層かは、リリースからは確認できません。
- 調査元は、動画などを扱う営業支援ツールの提供企業です。
したがって、この調査から言えるのは「営業との接点がない場面でも、動画やFAQを見て判断する買い手が一定数いる」という範囲までです。「買い手が動画を求めている」とまでは言えません。
営業動画が検討される理由
- 説明時間の短縮の可能性:見込み客が動画で基本情報を理解していれば、商談での説明を短くできる可能性があります。
- フォローアップの負荷軽減:オンボーディングなど、毎回同じ内容を説明する領域を動画化できます。
- 説明の統一:担当者による説明のばらつきを減らせる可能性があります。
これらはあくまで可能性です。すべての企業で営業効率が改善するわけではありません。
公開事例の読み方|動画ではなくサービス機能の事例
ここで紹介するのは、動画の効果を示す事例ではありません。公開事例の数字をどう読むかを示す参考例です。
事例:株式会社豊田(三井住友銀行の法人口座「Trunk」)
埼玉県を拠点に住宅の企画・設計・施工を行う株式会社豊田の事例が、三井住友銀行の公式サイトで公開されています。
導入前の課題
- 「年間の振込件数は1,000件を超え、振込手数料だけで年間65万円ほどかかっていました。」
導入後の変化(同社の説明)
- 「導入後3カ月間の振込手数料は約3万円で、現在のペースであれば年間12万円程度に収まる見込みです。」
- 「振込日は振込作業だけで1時間半かかっていたのが、30分程度で済むようになりました。」
読み取りの注意点
- この成果は、顧客企業(豊田)の振込コストと経理作業の改善です。動画の効果ではなく、三井住友銀行の営業効率の改善でもありません。
- 12万円は「見込み」です。実績ではありません。
- 作業時間の短縮は、請求書支払機能の利用によるものです。取材時点の同社の説明は次のとおりです。「現在は、請求書支払の機能を試験運用しています。非常に便利だったため、本格導入も検討しています。」
- 同機能の提供状況は変わる可能性があります。SMBCグループが請求書支払を含む新機能を2026年1月19日に提供開始したとの報道もあります。Impress Watch最新の提供条件は公式サイトで確認してください。
- 豊田がTrunkを選んだ理由は手数料です。「振込手数料をはじめとする各種手数料に魅力を感じ、半年前にTrunkの口座を開設しました」。事例ページに動画の記述はありません。
この事例から学べること:顧客に選ばれる理由は、まずサービス自体の価値(ここではコストと手間の削減)にあります。動画は、その価値を伝える手段のひとつにすぎません。
動画制作が営業効率に影響しうる領域
①営業説明時間の短縮(可能性がある領域)
- 期待:見込み客が動画で基本情報を理解していれば、同じ説明を省ける可能性があります。
- 現実:動画が実際に視聴されるかは、配置の仕方に左右されます。「説明時間が30分から10分になる」といった保証はありません。ニーズの把握やクロージングには、対面でのやり取りが必要な場合が多くあります。
- 結論:改善の可能性はありますが、サービス内容、営業スキル、見込み客の質など複数の要因に左右されます。
②顧客の自動教育(オンボーディング)
- 期待:導入企業向けの説明を動画化し、フォローアップの時間を減らします。
- 現実:初期設定などの定型的な案内には向いています。個別の問い合わせやトラブル対応は、動画では代替できません。
- 結論:営業効率の改善というより、「営業サポート業務の効率化」と位置づけるのが適切です。
③営業資料まわりの作業
- 期待:定型的な説明を動画化し、資料の作成・説明の手間を減らします。
- 現実:顧客ごとのカスタマイズが多い場合、動画の活用は限定的です。説明内容を標準化しやすい商材のほうが向いています。
- 結論:部分的な削減は見込めますが、営業活動全体を大きく変える効果は期待しにくいでしょう。
営業動画制作のメリット
メリット1|営業との接点がない場面での情報提供
営業担当者がいない時間帯や、社内で資料が共有される場面でも、動画は説明を代わりに行えます。前述の調査のように、営業不在で検討が進む買い手がいることは、動画活用の背景のひとつです。 注意点:動画があるだけで営業が改善するわけではありません。配置と内容が重要です。
メリット2|説明の統一と教育の効率化
新人教育やサービス説明を動画で統一すれば、同じ内容を何度も説明する手間を減らせます。 注意点:営業スキルやクロージング力は、動画では育成できません。
メリット3|測定・改善サイクルの構築
視聴回数、視聴継続率、クリック率などを測定できます。 注意点:視聴数だけでは不十分です。商談化率や成約率と結びつけて測定する必要があります。
営業動画制作のデメリット
デメリット1|初期投資と制作期間
費用や期間は、後述の「制作費用・期間の目安」を参照してください。効果が出る時期が不確実なため、費用対効果の判断が難しい点がデメリットです。修正が入れば、期間と費用は増えます。
デメリット2|測定・改善の手間
- 制作後も、視聴率や商談への影響を定期的に測定する必要があります。
- データ分析のスキルがない場合は、外部の協力が必要になることがあります。
- 改善のために再制作するなら、追加の費用と時間がかかります。
デメリット3|すべての営業課題には対応できない
リード獲得の不足、資料の質、営業スキルの不足といった課題は、動画では解決できません。課題を分析せずに制作に進むと、費用対効果が見込めなくなります。
営業効率改善を目指す動画制作のポイント
ポイント1|営業課題の把握
制作の前に「営業のどこが非効率か」を明確にします。たとえば、次の点を確認します。
- 説明に何分かかっているか
- 見込み客はどの段階で離脱しているか
- 資料作成に何時間かかっているか
ポイント2|ターゲット別のメッセージ設計
同じサービスでも、相手によって伝えるべき点は変わります。
- 参考として、Trunkの公式サイトには「メガバンクなのに手軽!」「コストを抑えられる」「本業に集中できる」といった訴求が掲載されています。
- 公式は、Trunkを「主に中小企業や新設法人のお客さま向け」と説明しています。
- 「経営者向けにはコスト、経理担当者向けには業務効率」という分け方は、本記事での整理です。公式がそのように振り分けているわけではありません。
- Trunkのコンセプトページには、「誕生篇」「Dear companies篇」の2本の動画が掲載されています。ターゲット別の動画かどうかは確認できていません。
ポイント3|冒頭の設計
- 動画の離脱を防ぐうえで、冒頭の設計が重要だという指摘があります。「動画の離脱を防ぐうえで、最初の数秒間の設計は極めて重要です。」Funusualただし同ページは、TikTokなどの短尺動画を主な文脈としています。
- 一方、NRIは動画広告について次のように述べています。「動画の秒数と広告認知率や商品購入意向は相関しておらず、バンパー広告に代表されるような6秒までの広告素材でも広告認知や広告効果は十分に高い傾向にあると言える」。NRIインサイトシグナル
- NRIの調査は動画広告が対象で、BtoB営業動画ではありません。また、「長さと効果に相関がない」ことを示すものであり、「冒頭が重要」の直接の根拠でもありません。
- BtoB営業動画で「冒頭◯秒で判断される」といった法則は、確認できていません。冒頭の設計は重要な検討事項ですが、効果は内容と配置に依存します。
ポイント4|配置の設計
同じ動画でも、置く場所で効果は変わります。
- HP:顧客教育
- メール:資料の補完
- 営業プレゼン中:説明の補強
- オンボーディング:導入企業への案内
配置を決めずに制作すると、視聴されない可能性が高くなります。
ポイント5|制作後の測定設計
測るべきなのは、視聴数ではなく営業成果です。
- 視聴者と非視聴者で商談化率・成約率を比較する
- 視聴から問い合わせまでの期間を追跡する
- 見込み客のセグメント別に効果を分析する
制作費用・期間の目安
制作費用(公開されている制作会社の例)
費用は、制作会社、仕様、演出で大きく変わります。公開されている例を示します。
| 制作会社 | 尺 | 公開されている費用 |
|---|---|---|
| A社(標準版) | 1分 | 15〜50万円 |
| 同上 | 3分 | 30〜80万円 |
| 同上 | 5分 | 40〜120万円 |
| B社 | 30秒以内 | 15万〜80万円 |
| 同上 | 1分 | 30万〜150万円 |
| 同上 | 3分〜5分 | 80万〜300万円 |
- 確認できた2社では、最低額は15万円でした。
- 3〜5分の動画では、上限が数十万円から300万円まで開いています。見積もりは複数社から取ることをおすすめします。
- 差が出る要因は、撮影かアニメーションか、ナレーション、字幕、修正対応の範囲などです。
制作期間の目安
- 「一般的な企業動画なら、企画から納品までの目安は4〜8週間です。」
- 短納期については、次のように説明されています。「短納期では、尺・本数・撮影範囲・確認回数のうち、どこを調整できるかを先に相談します。」
- 具体的な週数が出典にない場合、納期は個別に制作会社へ確認してください。
工程の目安は次のとおりです。
| 工程 | 目安 |
|---|---|
| 企画・構成 | 1〜2週間 |
| 撮影準備 | 数日〜2週間 |
| 撮影 | 1〜2日が一般的 |
| 編集 | 2〜3週間 |
| 修正・最終調整 | 数日〜1週間 |
見積もり時に確認すべき項目
- 制作範囲(企画、台本、撮影、編集、ナレーション、BGM、字幕など)
- 修正の回数と、対応できる段階
- 納期と、急ぎ対応の可否
- 納品形式(MP4、SNS用の複数サイズなど)
- 著作権と使用範囲(社内のみ、営業資料、広告配信など)
修正対応のトラブルを避ける
- 契約時に、各工程での修正回数を明記する
- 大幅な内容変更は、再制作として別途費用にする
- 修正内容を文書で共有する
よくある質問(FAQ)
Q1. 営業効率は本当に改善されますか?
改善される可能性はあります。次の条件が必要です。
- 営業課題が「説明時間の長さ」にある
- 動画の内容が見込み客のニーズに合っている
- 動画が実際に視聴される場所に配置されている
- 導入前後で成果を測定できる
「動画を作れば営業効率が改善される」という保証はありません。
Q2. 動画制作にはどのくらいの期間が必要ですか?
企画から納品までの目安は4〜8週間です。工程別の目安は、上の表を参照してください。納期を短くする場合は、尺・本数・撮影範囲・確認回数のどこを調整するかを、制作会社と先に相談します。
Q3. 費用対効果はどう判断すればいいですか?
次は、あくまで仮定に基づく試算例です。実際の数値に置き換えて検討してください。
- 1件あたりの現在の説明時間:30分(仮定)
- 年間の商談件数:300件(仮定)→年150時間
- 動画で短縮できる時間:30分→20分(仮定)→年50時間
- 1時間あたりの付加価値:5万円(仮定)
- 年間の改善価値:50時間×5万円=250万円
制作費用が50万円なら、この仮定どおりに進んだ場合は5倍になる計算です。ただし、仮定が実現するかは、動画の内容、配置、営業戦略に依存します。
Q4. 既存の資料を活用して費用を抑えられますか?
可能な場合があります。
- 既存の営業資料の文章や図を、動画の構成に流用する
- 既存の写真・映像を編集して、アニメーション動画にする
ただし、動画向けに情報を取捨選択して構成し直す作業は必要です。資料をそのまま動画にするだけでは、効果は出にくいでしょう。
Q5. 動画制作後、営業効率を測定するにはどうすればいいですか?
- HPやメール内:Google AnalyticsやYouTube Analyticsで、視聴率と視聴継続率を測定する
- 営業資料内:動画を見た見込み客からの問い合わせ数を記録する
- 営業プレゼン時:動画ありとなしで、成約率を比較する
最も重要なのは、視聴数ではなく、視聴後の営業成果(問い合わせ数、商談化率、成約率)を測ることです。
営業動画制作を検討する際のチェックリスト
制作前
□ 営業課題の明確化:説明に何時間かかっているか。動画で削減できる部分はどこか。全体への影響はどの程度か。
□ ターゲットの定義:誰に向けた動画か。何を伝えるべきか。
□ 配置場所の決定:HP、メール、資料内、商談中のどこか。
□ 予算・期間の設定:予算と納期は現実的か。複数社から見積もりを取ったか。
□ 測定方法の設計:何を指標に判断するか。
制作中
□ 企画段階:ターゲットに響く内容か。課題の解決につながるか。
□ 制作段階:修正内容を文書で共有しているか。修正回数は契約どおりか。
□ 納品前:すべての修正が反映されているか。納品形式は合っているか。使用範囲は明確か。
導入後
□ 1か月後:営業担当者が実際に動画を使っているか。見込み客の反応に変化はあるか。
□ 3か月後:視聴数と視聴継続率はどうか。商談化率・成約率に変化はあるか。説明時間は短縮されたか(データで確認)。
□ 改善検討:期待した成果が出たか。再制作が必要か、配置の変更で足りるか。
まとめ|現実的な期待値で判断する
営業動画の制作には、メリットもデメリットもあり、測定と改善の手間もかかります。判断の前提は次の3点です。
- 営業課題の把握:動画で本当に解決できる課題かを見極める
- 期待値の設定:改善は保証ではなく「可能性」として捉える
- 測定・改善の体制:作って終わりにせず、成果を測って改善し続ける
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